はじめに
「銀歯にしますか? それとも白い歯にしますか?」
虫歯の治療をする時に、こう問われて悩んだ経験のある方は少なくないでしょう。近年、テレビやインターネット、SNSなどでは「銀歯は体に良くない」「見た目が悪い」といったネガティブな情報が目立ちます。当院でもクライアント様から「先生、やっぱり銀の詰め物はだめなんでしょうか?」と、不安そうに相談されることが増えてきました。
結論から申し上げます。「銀歯が絶対にダメ」ということはありません。 銀歯には長年、日本の保険診療を支えてきた確かな実績とメリットがあります。しかし同時に、現代の歯科医療において、見過ごせないデメリットがあることも事実です。
今回は、歯科医師の立場から銀歯の「光と影」を公平にお話しします。ご自身の体の一部となる詰め物について、正しく知るきっかけにしていただければ幸いです。
そもそも銀歯とは何?
私たちが一般的に「銀歯」と呼んでいるものは、純粋な銀ではありません。正しくは「金銀パラジウム合金」という合金です。
この金属は、銀をベースに、ゴールド(金)やパラジウム、銅などが混ぜ合わせて作られています。日本で医療保険が広く普及した昭和の時代から現在に至るまで、虫歯治療の「王道」として使用されてきた実績のある材料です。
銀歯が選ばれ続けてきた3つのメリット
①強度と耐久性
奥歯は噛む時に自分の体重と同じくらいの強い力がかかります。金属の銀歯は頑丈で強い力に耐えることができ、割れたり欠けたりすることがほとんどありません。
②健康保険が適用され、経済的負担が少ない
日本においてはこれが最大のメリットと言えます。
③適応できるケースが多い
小さな詰め物(インレー)から歯を大きく覆う被せ物(クラウン)、さらには複数本の歯を繋ぐブリッジまで、幅広い治療に対応可能です。
時代とともに見えてきた銀歯のデメリット
①「二次虫歯(再発)」のリスク
詰め物と歯のすき間から再び虫歯になることを「二次虫歯」と言います。大人の虫歯のほとんどは二次虫歯といっても過言ではありません。すき間の原因は詰め物を入れた段階での不適合、接着に使用しているセメントの経年劣化による溶解、咬合力による歯や接着剤の亀裂、歯ぐきが下がった歯根露出部からの虫歯などが挙げられます。
銀歯の中の二次虫歯はレントゲンで写らず見つけにくいため、気づいた時にはかなり進行しているということもあります。
②金属アレルギーのリスク
非常にまれではありますが、銀歯から溶け出した金属イオンが少しずつ体内に取り込まれアレルギーを発症することがあります。
③見た目(審美性)の問題
国際化社会となってきて、日本人も歯に対する意識が高まっています。口を開けた時や笑った時に銀歯が見えることを気にする人が増えており、白い歯へのニーズが高まっています。
CAD/CAM(保険適用の白い歯)はどうなのか?
白い歯へのニーズの高まりや金属の高騰により、保険治療でも銀歯回避の方向に向かっており、近年は銀歯以外の選択肢が増えました。それがCAD/CAMと呼ばれるプラスチック(レジン)に、セラミックの粉を混ぜて強度を高めた素材を使用した被せ物です。
セラミックと比べて安価に白い歯を手に入れることができるのは患者様にとって有難いことですが、歯科医師としては長期的な視点で考えると不安の大きい材料ですので、今回はあえてデメリットのみ挙げます。
①強度の不安
前述の通り特に奥歯には大きな力がかかるので、銀歯に比べて割れたり欠けたりのリスクが大きくなります。
②着色や汚れがつきやすい
比較的柔らかい素材のため、傷がつくと表面がざらざら(粗造)になり、色が悪くなります。また、プラーク(汚れ)がつきやすいため、虫歯や歯ぐきの炎症の原因になることもあります。
③銀歯よりも歯を削る量が多くなる
強度確保のため厚みが必要になり、その分、歯を削る量が多くなります。
④現時点では長期的な予後が不明
比較的近年普及した材料であるため、10年、20年といった長期的な安定性はまだ不明です。歯科医師としては、摩耗によって噛み合わせの相手の歯が伸びてきたり(挺出)、隣の歯が移動したりする懸念があります。
まとめ
「いま入っている銀歯はすぐ外すべきなの?」と思われるかもしれませんが、その必要はありません。現在、問題なく機能しており、周囲に虫歯もなければ、そのまま大切に使ってください。ただし、定期的な歯科医院でのチェックは必須です。
今回は保険適用のある材質についてのみ書きましたが、より歯を長持ちさせたい、美しく仕上げたいという場合、自由診療(保険適用外)のセラミックやダイレクトボンディングという方法もあります。
歯は一生使う大切な臓器です。どの治療法がベストかはお口の状態、ライフスタイルなどによって変わりますので、担当医とじっくり話し合い、納得のいく治療法を選択してください。

